FXライフ 8 ドルの歴史と世界のドル ユーロ誕生

駆け足でドルの歴史を見てきたが、ようやく現代にたどりついた。近年のドルの歴史を語るうえで忘れてはいけないのが1989年の「ベルリンの壁」の崩壊である。冷戦の終結は1991年のソビエト連邦の解体へとつながり、翌年、欧州連合の統一通過「ユーロ」の導入が定められる。当時のアメリカはIT産業の急成長などによって「双子の赤字」を解消。世界が米ソの二極状態から、米国を中心とした一極世界へ向かうものと想像された。


そして2001年。9.11の同時多発テロ事件が発生。2003年、米国がイラク攻撃を開始。以降、投資家の間では「地政学的リスク」という言葉がクローズアップされるようになる。これは当時の連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長が使ったことで世界的に有名になったものだ。同時多発テロ事件以降、中東情勢に緊張が走る度に米ドルは売られた。そこで「地政学的リスク」が「ドル安」につながるという理論が注目されたのである。それは米国のイラク攻撃によって、世界経済がスローダウンする、そのリスクとして「ドル安」が進行するという考え方だ。つまり、イラク攻撃→中東産の原油価格の上昇→インフレに対する懸念→金利の上昇→世界的な景気の後退、という流れを想像したのである。


当時の多くの評論家、経済学者が「地政学的リスクによって日本も大きな影響を受ける」と指摘したのは、次のような文脈からだった。
「原油価格の高騰は、エネルギー価格や原材料価格の上昇をもたらす。これが日本企業の設備投資意欲をさらに抑制する。原材料価格が上昇すれば、紙・パルプ製品、繊維、化学製品、プラスチック製品など、多くの商品の卸売価格の上昇をもたらし、結果的には私たちの生活に直接影響を与える消費者物価にも反映されていく」


「また、イラク情勢の不透明感から株価はバブル後の最安値を更新。株安は日本経済の最大の懸案である不良債権処理をさらに遅らせる。加えてイラク情勢の緊迫度が増す中、米国経済への悪影響懸念からドル安が進む。結果としての円高が長期化すれば、比較的好調な日本の輸出は失速する。こうして『地政学的リスク』はドル安、原油高、株安、円高という厳しい状況を日本にもたらす」


こういった予測が主流を占めた。では、米軍のイラク攻撃によって日本及び世界経済の景気は後退しただろうか? 原油価格の急激な変動はしばらく続いたが、世界経済に及ぼすマイナスの影響はそれほど大きくなかった。ドル安の進行は続いたが、世界的な「ドル暴落」は起こらなかった。


当時アメリカ経済に対する先行き不安から、行き場を失った投機資金が一気に石油市場に流れ込んだ。ひとつの市場に急激に莫大な資金が流入すれば、価格は簡単に急騰する。だが、こうした急騰はまたあっさり下落もする。高値が高値を呼んで利潤率が低下すれば、大量の投機資金はより有利な利率を求めて移転するからである。こうして現代へとつながっていく。


さて、西インド諸島で唯一、豊かな石油と天然ガスが産出する島国がある。トリニダード・トバゴだ。輸出・輸入ともアメリカがトップというこの国の通貨はトリニダード・トバゴ・ドル(TTD)。人種はアフリカ系とインド系だが、公用語は英語である。日本には馴染みが薄い国だが、日本は同国の主な援助国である。


イギリスから独立した1962年以降、石油、石油化学部門が輸出収入、政府歳入の大半を占めている。しかし1980年代半ばには、石油価格の急落という外的要因によって深刻な経済危機に見舞われ、1980年代後半、輸出振興、規制緩和、民営化推進等経済の構造調整を余儀なくされた。1993年以降、エネルギー部門の拡大とともに、構造調整政策の効果が現れはじめ、成長はプラスに転じ、現在は比較的安定している。2005年以降もエネルギー産業の拡大、建設業の好調、製造業及び農業の好転が予想され、政府は2006年~2008年の実質GDP成長率7%を見込んでいる。カリブ海の国の中で最も豊かで生活水準の高い国であることからトリニダード・トバゴ・ドルに注目する投資家は少なくない。


By Master K/益田 慶