ヨーロッパの財閥と企業グループ 71 エネルギー資源をめぐる攻防(9)

国際エネルギー機関(IEA)の報告書によれば、旧ソ連邦時代からの主力ガス田の生産は過去5年間に約15%減少したとのことです。2001年に生産を始めた西シベリアのガス田の増産が減少分を埋めてきましたが、ここも2005年にピークを打ち、他のガス田開発のメドは立っていません。


近年話題になっている世界最大級のガス田に、北極海の一部であるバレンツ海・シュトクマンがあります。世界最大のガス企業「ガスプロム」が乗り出したこのガス田開発は、初期投資だけで200億ドルという巨大事業です。「技術的にも資本的にも米欧メジャーの支援なくして開発は不可能」と言われており、ガスプロムの事業独占と外資からの埋蔵量に見合う権益交換の提案を求める数年に亘る交渉は、条件が折り合わず交渉は打ち切られました。


それが今年の7月に新たな進展を見せたのです。ガスプロムがシュトクマンのガス田開発にフランスの石油大手「トタル」を参入させることで合意したというのです。資源分野で外資排除を進めるロシアですが、開発が困難な現場については外国の技術と資金を投入させようという目論見があるのでしょう。「流氷下の水深350メートルにある同ガス田の開発を独力で行う技術力はない」と指摘する専門家もいます。

ガスプロムによると、トタルは同ガス田の「初期段階の開発」を担当する事業会社の株式25%を獲得したようです。ただし、ガス田の開発権益を有する中核事業会社の株式100%は、「ガスプロム」が維持することには変わりありません。


プーチン政権は2004年、石油大手ユコスを解体したのを皮切りに、石油・天然ガス分野の国家管理を急速に進めてきました。2006年には、「ロイヤル・ダッチ・シェル」が主導していた極東のガス田「サハリン2」の経営権を「環境破壊」を口実に奪取、今年に入っても英BP社が進めていた東シベリアのコビクタ・ガス田の経営権を譲渡させました。


それでも、外資側のロシアへの参入意欲は衰えず、このほどシェルはロシア国営の石油大手「ロスネフチ」との間で、BP社は「ガスプロム」との間で、それぞれ将来の資源開発に関する「協力協定」を締結しました。世界的にも、石油・天然ガスの有望埋蔵地が政治的に不安定な国・地域に分布しているためと見られています。そのひとつが北極海なのです。地球温暖化によって北極海の氷山が解けつつあることで、船が運行できるメドが立ち、開発が急遽進められているのです。

シュトクマンのガス埋蔵量は約3兆立方メートル以上とされ、世界のガス需要を丸1年満たすことができる規模です。ガスプロムは2013年にパイプライン、2014年に液化天然ガス(LNG)での出荷を開始したいと計画しています。


ガスプロムは、世界の確認ガス埋蔵量の約17%を持ち、売り上げ規模500億ドル、主要ガス田と供給網を独占する巨大企業グループへと成長しました。2000年以降、ガスプロムは本業以外の不動産やテレビ局「NTV」をはじめ、新聞、雑誌などメデア事業などへ300億ドル超を投資、ガス生産関連向けは125億ドルと半分以下に留まっています。これは政権の意向によるメデイア支配、短期利益志向の投資優先と見られています。


この独占企業の非効率性と外資の投資を阻止する体質によって、需要の拡大にもかかわらず、肝心のガス生産量はこの数年ほぼ横ばいで推移していることもあって、ロシア政府は北極海の開発を急いでいたのでしょう。しかし現状では、中央アジアからの輸入拡大は避けられない状態にあります。


また電力事情も政府系統一エネルギーシステムが独占しているものの、国内需要と輸出契約に対する供給が追いつかなくなり、ロシアは今年から電力の純輸入国に転落すると予測されています。一見エネルギー大国に映っているロシアですが、実は需要と供給のバランスが崩れ始めているようなのです。こうした現実と政治・経済・地政的状況からどのような展開になって行くのか、欧州とロシア・中央アジアの動向が注目されます。

By Master K/益田 慶