世界資源戦争 40 排出権ビジネスとクリーンエネルギー
排出権取引は、各国に温室効果ガス削減の数値目標が定められた「京都議定書」で採択された制度のひとつだ。温室効果ガスの排出枠を超えた国と排出枠に余裕のある国が、排出枠を「1トン6ドル」といった金額に換算して売買できるしくみである。排出権取引で先行しているEUでは、すでに域内の大量排出企業を対象に排出枠が割り当てられ、取引市場が誕生している。2007年の世界の排出権取引額は、約6兆4600億円。取引総量は27億トン。金額、量とも急激に増加している。
温暖化対策に「温室効果ガスをたくさん出すと損失が増える」「排出枠に余裕が出れば売却益が得られる」という市場原理が導入されたことで、温室効果ガスの削減が進むことが期待されている。しかし、その反面、排出権が金融商品として投資対象となることを危惧する声もあがっている。
国内でも何社かの信託銀行が、排出権を証券化した信託商品を販売。1000トンから数万トン単位の小口の排出権を求める企業に向け、信託受益権の形で排出権を提供する。また、一部の証券会社は、排出権を株式や債権と同じように取引している。
さて、京都議定書の締結国の日本は、1990年の排出量を基準にして2010年には6%削減することを約束し、「チームマイナス6%」を掲げて石油代替え燃料の開発やクールビズなど、様々な取り組みを続けているが、産業界は依然燃料を石油に依存しており、6%削減どころか14%も超過しそうな気配だ。そこで、日本がロシアから2億円の排出権を購入するのではないかという噂が出ている。ロシアは二酸化炭素の削減に余裕がある国で、日本に公式にアプローチしているというのだ。
一方、EUのなかで二酸化炭素排出削減において好成績をあげているのが、スウェーデンとドイツだ。ドイツは1990年、二酸化炭素排量12億トンだったが、現在は10億トンを下回っている。それを成し遂げた要因のひとつは、1991年に太陽光発電や風力発電など自然エネルギーの利用を促進する法律「再生可能エネルギー法」をいち早く施行したことだ。再生電力の買い取り制度によって投資を促すもので、再生可能なエネルギーによって生産された電力を20年間にわたり市場価格より高い固定価格で電力会社が買い取ることが義務づけられている。
これにより自宅の屋根に太陽光発電システムを取りつけ人が増え、数年間で需要は拡大した。太陽電池の生産国にもかかわらず、日本ではコストが高くて導入しない家庭が多いのに対して、ドイツでは個人が電力会社に売電して「儲ける」ことも可能なのである。こういった政策を背景に、2008年春、シャープを抜き、太陽電池の売上高で世界最大のメーカーになったのが、ドイツの「Qセル」だ。
ところで、太陽電池と資源高は密接につながっている。太陽光発電の需要が伸びたことで、太陽光発電システムに欠かせない主原料の多結晶シリコンが半導体材料としての需要増もあって品薄となり、シリコンの価格が高騰。その結果、2006年に住宅用太陽電池は一度値上がりしている。シリコンの主要生産国5カ国は、中国、ロシア、ウクライナ、ノルエ-、ブラジルだ。
近年の原油高で新エネルギー発電への期待が高まるなか、太陽光発電は、火力発電や原子力発電、あるいは風力発電などと共存できるのだろうか。それとも水素やバイオ燃料など新しいエネルギーが浸透するのだろうか。決め手は、製造コストと競争力である。たとえば時代に逆行するようだが、燃料として石炭が安ければ、競合することになる。「世界資源戦争」は国や企業のみならず、石油を使う発電と石油を使わない発電といったエネルギー間の競争にも発展しているようだ。
By Master K/益田 慶