世界資源戦争 45 食料以外の有機物を原料とするバイオエネルギー

アメリカは、年間に3億トン以上の穀物を生産している農業国である。そのうち国内消費は2億5000万トンだから、輸出余力は高い。余剰となっているトウモロコシをバイオエタノールに転換できれば、トウモロコシの需要は安定し、食料価格は高値で留まる。世界で最も大きな穀物相場はアメリカにある。すなわち、穀物の価格決定権はアメリカが持っているということだ。
このような状況で、穀物が不作になれば、どうなるか。穀物価格もバイオエタノールの価格も大幅に高騰する。「食料をエネルギーにする」という発想は、どちらの相場にも深く関係している。

日本でもバイオエネルギーの研究や開発は進められている。日本の場合は、余剰穀物はないので、廃油や木材、下水の汚泥などが原料となる。たとえば、日本の産業廃棄物のおよそ半分を占める汚泥を"資源"とみなし、エネルギーとして利用しようという動きが活発になっている。汚泥とは、水処理場の処理過程や、工場の廃液処理過程などで生じる泥状の物質。その排出量は、年間約1億9000万トンにも及ぶ。排出者に処理が義務づけられ、廃棄するにもコストがかかることから産業界の厄介者となっている。

下水や下水汚泥は、「資源とエネルギーの宝庫」という見方がある。たとえば、日本下水道事業団は、下水からリン資源を回収する技術開発に取り組んでいる。日本は工業原料のリン鉱石を外国からの輸入に頼っているが、1年間に下水処理場に流入するリンの量は年間輸入量の10~20%を占めるという。発想を転換すれば、日本の下水処理場は「リンの鉱脈」ということになる。

国土交通省がすすめる「ロータスプロジェクト」は、下水処理の過程で生じる汚泥を低コストで資源化する先端技術誘導プロジェクトだ。下水汚泥からメタンガスや電気エネルギーを回収する技術開発が期待されてきたが、そのエネルギー回収に大量の電力を要するという矛盾を抱えてきた。同プロジェクトは、それを低コストで実現することを開発目標としている。いくつかの技術を紹介しよう。

「消化ガス発電システム」は、汚泥が発酵する際に発生するガス(消化ガス)を増加させ、ガス発電を行なう技術。実用化すれば、下水処理に必要な消費電力の50%以上を自給できるようになる。「メタン発酵発電システム」は、下水処理場が生ごみなど有機物の廃棄物を受け入れ、下水汚泥と混合してメタン発酵させ、メタンガスを回収する技術。メタンガスも消化ガス同様、発電に利用できる。

一方、家畜の糞尿や生ごみなどの動植物を発酵させて得られる「バイオガス」が、産業廃棄物の有効利用法として、また石油の代替エネルギー源として注目を集めている。先行している国は、ドイツとスウェーデンだ。ドイツには2000近くのバイオガス工場があり、汚水処理場や埋立てゴミ、家畜糞尿などから発生するガスを使って、電力や熱エネルギーを生産している。

日本でも2008年1月、バイオガスの回収・精製・流通の実用化を推進する合同会社が設立され、日本初の本格的なバイオガス事業化に乗り出した。バイオガスの発生源である産廃処理施設、下水処理場、食品工場、畜産農家などを結ぶネットワークづくりをめざし、ゆくゆくは会社や家庭で使用するガスや自動車の燃料として流通させるという。

このように廃棄物を有効活用する技術力は、日本とドイツが世界で群を抜いている。「チームマイナス6%」の帳尻を合わすために、ロシアから1兆円で排出権を購入する前に、「日本の新エネルギー開発技術とプラントをセットで海外に輸出し、それによって削減できる温室効果ガスを、日本の削減分として換算する」といった提案を日本の政治家が「環境サミット」で公言しない限り、アメリカやロシア、ドイツ、フランスといった国とは互角に戦えないのではないだろうか。資源のない国は、自国の技術を高く売るしかない。世界資源戦争は、環境分野を大きなビジネスとしていこうと考える各国の思惑が混じりあい、さらに混沌としている。


By Master K/益田 慶