世界資源戦争 52 欧州のエネルギー政策 産業競争力を高める環境対策

EUは2005年、温室効果ガスの排出権取引制度を主要国に先駆け導入した。「企業活動が制約され、競争力が低下する」と反発する産業界の声もあったが、欧州委員会環境局は「むしろ企業のメリットは大きい」と説明してきた。環境政策がEUの国際競争力を高めると見込んでいるのだ。

その推進力となったのが、エネルギーの安全確保である。EUは石油と天然ガスの供給源とルートをロシアに依存しているため、危機感が高まっていた。そこで、2007年3月に開催されたEU首脳会議で次ぎのような目標が掲げられた。


1.EU27カ国の温室効果ガスの排出を2020年までに90年比で20%削減する。

2.エネルギー消費に占める再生可能エネルギー(風力、水力、太陽エネルギー、バイオマス)の割合を2020年までに20%引き上げる。


ポイントは、温暖化対策を掲げつつも、国際競争力のアップとエネルギーの安定確保が両立することにある。


さらに2008年1月、欧州委員会は欧州会議の目標を実現するため、具体的な施策案を発表した。温室効果ガス排出権取引制度の改正、再生可能エネルギー利用促進指令やCO2回収貯蓄指令、バイオ燃料使用の数値目標などだ。ひとつずつ解説していこう。


排出権取引では、対象が主要な工業排出源に拡大され、EUの単一炭素市場を強化することになった。また、建設、農業、廃棄物処理など対象外部門での加盟国の排出削減目標が定められ、法的拘束力のある数値目標が提案された。バイオ燃料使用については、EU運輸部門を対象に2020年までにバイオ燃料混合率を10%引き上げる数値目標を掲げた。これらの包括的提案は、2009年春までの承認を目指している。


これらのことがどうして国際競争力のアップにつながるのかといえば、たとえば排ガス規制をすることで、水素ガス自動車やバイオ燃料を使う自動車の普及に加速がつく。世界に先駆けてバイオエタノールや水素ガスステーションの設置をシステム化することで、アメリカや日本、韓国、中国にリードできる。ハイブリッド車の生産では、日本車を駆逐できる。太陽光発電施設を設備する企業の売電事業を認めることで、太陽電池産業は日本や韓国の追随を許さず、先行者利益を確保できる。事実、太陽光発電に関しては日本でなく、ドイツやスペインが一歩リードしている。

また、EUはいち早く排出権取引市場の確立を成し遂げた。2006年度の排出権取引金額は312億ドルだったが、2007年度には640億ドルとなり、2008年度はその倍まで広がると見られている。その取引の中心地がEUだ。そこには金融商品の巨大な取引市場が誕生した。アメリカと日本は、明らかに出遅れた格好だ。排出権市場に詳しい識者は、「2050年にCO2を半減させるという長期目標がある以上、規制はどんどん厳しくなる。だから排出権の値段は現在の2倍まで上がるだろう」と予測している。2倍まで高騰すれば、当然EUが儲かるしくみができあがっている。

EUが世界のルールメーカーになれば、黙っていても自らの利益につながるという目論見がそこにある。世界最大のCO2排出国となった中国や、いずれ第2位になるかもしれないインドなどは、今から戦々恐々としているのではないだろうか。中国とインドはもちろん、京都議定書による排出削減義務を負ってはいない。しかし、政治・経済の両面で存在感を高める両国が、将来にわたって温暖化対策のコストを背負わないわけにはいかないだろう。そのとき、中国とインドは数兆円にも及ぶ排出権をどこの国から購入するのか。EUを筆頭にロシア、カナダといったところが順当だろう。EUの先行者利益とは、そこまで見込んだものだと考えられる。


By Master K/益田 慶